驚愕の珍説登場!
面白い。世の中面白いことがあるものである。私はダイエットに興味がある。常にと言っていいほど興味があるので、YouTubeにもダイエットに関する動画がよくオススメとして出てくる。ある日のこと、そんなオススメに突如現れた、実に興味深いYouTube番組を見た。主に栄養に関しての発信をしているチャンネルらしく、戦国武将のような名前の方が発信者であった。この動画に関して論評していこうと思う。番組は第一部と第二部に分かれていて、どちらも拝見したのだが、私が特に注目したのは第一部であった。その内容は「カロリー制限で痩せるというのはウソだった。」というのである。さらに、「運動をしたら痩せるというのはウソだった。」というのである。
素晴らしい。全く新しい理論構築がなされているのだと思った。そう。そうでなかったら、摂取カロリーよりも消費カロリーが多ければ痩せるという、極めて単純な理論が通用しないこととなる。それはエネルギー保存の法則が、人間の体には全く当てはまらないと言わんばかりの理論である。実際に動画をご覧になれば解るのだが、この戦国武将氏は確信に満ちた顔で、カロリー制限で痩せるなどと言うのは、ウソだ、と言っている。勿論、運動しても痩せないと言い放っている。厳密には、1㎏~2㎏なら痩せる、と言っている。しかし、5㎏とか7㎏は痩せられない。はて、7㎏とは何故だろう?と思っていたら第二部が「1か月で7㎏痩せる方法」だった。なるほど。まあ、細かい点は良い。詳しく内容を拝見していこう。
アメリカでの論文
戦国武将氏はアメリカでの研究を出してきた。動画では詳しい数字は出てこないので、調べて見ると、実際に、1990年から2010年にかけて行われた米国国民健康栄養調査(NHANES)のデータのようである。この調査では、「摂取カロリー増加と体重の増加に相関関係はない」との結果が示されたそうだ。肥満は一年ごとに0.37%増えたが、摂取カロリーはほぼ一定だったのだ。
女性のカロリー摂取量の平均は1761キロカロリーから1781キロカロリーへ若干の増加が見られたが、男性の場合はむしろ2616キロカロリーから2511キロカロリーへと減少しているということだ。
ほ~。女性の摂取カロリーって、アメリカでも日本でもそんなに変わらないのかな?などと見ていると男性の項目になって、ん?と思った。2616kcal?これって多くね?まあ、アメリカ人だからな~、なんて思いながら、他の資料もあたってみるとこんなものが出てきた。大和薬品のワールドヘルスリポート、81号である。それはこんな見出しで始まる。
「2010年版アメリカ人の栄養ガイドライン」公表 第1回 カロリー制限と運動で肥満撲滅へ
丁度、先の資料が出た年に出された報告書である。そこにはこんなことが書かれている。どんなことかというと
- アメリカでは肥満が深刻化しており、ガイドラインの1章の全てが肥満対策である。
- 子供の肥満対策が急務である。
- 子供の糖尿病の内、15%はⅡ型である。
- 大人の大半、子供の3人に1人は太りすぎである。
- 大人では、週150分のエアロビクス運動を推奨
まあ、肥満対策しなきゃね、という話なのだが、5を見て欲しい。あれ?運動を推奨してるね。さらに読んでいくとこう書かれている。
大人が減量したい場合は、減量の目標値にもよるが、1日に500kカロリー以上を削減する必要があるとしている。
あれ?摂取カロリー減らしても痩せないんじゃないのか?さらにこんなことも書いてある。大和薬品の記事をそのまま引用してみよう。
大人の大半、子どもの3人に1人が太りすぎ
「とにかく、太りすぎによる慢性疾患を減らすために、ウエストラインをほっそりさせる必要がある。食生活の改善は、個人や家族だけでなく、国家にとっても望ましいことである」と、農務省のトム・ヴィルサック氏は肥満撲滅を訴えている。</p>
「2010年版アメリカ人の栄養ガイドライン」は、大人の大半、子どもの3人に1人が太りすぎまたは肥満という状況の中、発表された。 ガイドラインでは、体に良い物を適切な量食べ、必要な運動を行い、正しい情報を選択するよう促している。</p>
さらにこの記事は続ける
全米調査データによると、19歳以上の男女の1日平均摂取カロリーは1785~2640カロリーと推定されている。決してカロリー過多というわけではないが、肥満の人はカロリーを少なめに見積もっている可能性があり、実際のカロリー摂取は推定を上回るものとみられている。自分が1日に何カロリー摂取しているか知らない人も多い。そこで、ガイドラインでは、食品のパッケージに記載されているカロリーにもっと注意するようアドバイスしている。
凄いカロリー摂取量!
非常に興味深い内容である。肥満の人はカロリーを少なめに見積もっている可能性が指摘されている。これは何かあるのではないかと思い更に調べてみると、面白い記事が見つかった。世界の人達が一日にどれくらいのカロリーを摂取していのか表にしたものだ。それによると、アメリカは世界第二位。摂取カロリーは一日あたり、3,834kcalとある。そうだろう。そうでなかったら、あんなに肥満がいるものか。冒頭の調査の数字など、全く当てにならないのだ。
戦国武将氏はイギリスでの研究論文も引用して、アメリカと同様の結果が出ていると、のたまっている。それでは、とイギリスも調べてみた。すると、こんな記事が出てきた。元記事はskynewsとあり、日本のGigajinが翻訳したものである。2018年2月20日の記事である。
多くの人は自分が見積もっているよりも50%もカロリーを多くとっていることが判明。
過去40年間にわたり、イギリスでは人々のカロリー摂取量が減少しているという調査結果が明らかにされてきましたが、実際には肥満状態にある人の割合が上昇を続けてきたという矛盾が生じていました。今回の調査結果は、この矛盾の謎を解明するものになると見られています。
とある。さらに続けて
イギリス国家統計局が新たに発表した調査結果によると、イギリス国民が考えている「自分はこれだけのカロリーを取っている」という数値は男性で2100kcal、女性で1600kcalでした。しかし、実際の状況を詳細に調査したところ、その数値は男性で3119kcal、女性で2393kcalとなっており、男女ともに自分が考えているよりも約50%も多くのカロリーを摂取しているという実態が明らかになっている。
この結果について、内分泌学者でObesity Health Alliance(肥満健康連合)の広報を担当するJohn Wass教授は、「人々が自分の摂取カロリーを少なめに見積もっていることは、驚きではありません。これは必ずしも現実から目をそむけているということではなく、それほどまでに食べ物から得ている栄養の実態を算出することが難しいことを意味しています」と述べている。
さて、ここまでくると、戦国武将氏の言説は、極めて怪しくなってくる。何しろ元の調査自体がいい加減なのだ。というより、こんなことは最初に気付かなければならない事なんじゃないのか?もしも後から気付いたのなら訂正を加えて頂きたいものだ。
さて、動画を見続けるとさらに面白い話が出てくる。それは運動をしても痩せるという証拠はどこにもないというのだ。はあ?何を言っているのだろう。ならば、マラソン選手、いや、マラソンでなくても良い。陸上で走る系の競技者が痩せている理由は他にあるというのだろうか。よく聞く話しなのだが、マラソン選手は減量をするのだそうである。勿論、体重が軽いほうが有利だからだ。しかし、この戦国武将氏の理屈でいうと、マラソン選手が減量に成功しているのは、食事制限のおかげでもなく、運動のおかげでもないということになる。正直に言うと、この辺までくると、あまりにも論理矛盾だらけで、(しかも自らの発言の矛盾にも気づかないのか、作為的なのか解らないが)見るのが疲れてくるのだが、我慢して最後まで見終わった。どうやら、この動画は、続編のケトジェニックダイエットに繋がる前振りのような動画なのだ。まあ、ハッキリ言ってしまえばケトジェニックダイエットを正当化する為の動画である。
世の中には、様々な人がいて、色んな意見がある。「太る原因は炭水化物だ」と信じ込んでしまっている人もいる。実際、それは否定できない部分もある。例えばアメリカ人は低所得層ほど肥満が多く、その理由はスナック菓子とコーラがぶ飲みの食生活(一部偏見で書いています)だからだ。それが、一番金がかからないからだ、という言説がある。これは正にその通りのような気がする。しかし、日本に目を向けるとどうだろうか。例えば明治の時代の人は兎に角、米を食べた。3食、米の飯が出てくるのが普通であった。しかし、この時代の人は皆太っていたのか?今でも残る写真を見ると、明治の人が太っている様には見えない。
高炭水化物食でもダイエットできるのだ!
こんな記事を紹介しよう。
高炭水化物食でダイエットと題されたこの記事はlink de diet(国立健康・栄養研究所)からの引用である。
元はユーレックアラートの研究論文で、この記事は米国「責任ある医療のための医師の会」がBMI25以上の人を対象に行った研究である。そこにはこんなことが書かれている。まあ、早い話がケトジェニックダイエットで禁忌としている方法で痩せて、健康になったという内容である。
この研究では被験者を以下の2群に分け、無作為臨床試験を行った。
<植物性食群>
一切の動物性食品を避け、料理や加工食品に添加された油を1日20-30gとする。それ以外は制限を設けず、炭水化物・カロリーも好きなだけ摂って良い。
<対照群>
普段通りの、肉や乳製品を含む食事。
両群ともに、運動についてはこれまで通りの習慣を維持してもらうこととした。
16週間経過後、試験開始前に比べ、対照群では炭水化物摂取量に変化はみられなかったが、植物性食群では炭水化物摂取量が増加したほか、炭水化物由来のエネルギー比率も高くなった。また、果物や野菜、全粒穀物や豆類といった、炭水化物と食物繊維が同時に摂れるような食品を豊富に摂取していた。
また、植物性食群のみにおいてBMI・体重・体脂肪量・内臓脂肪量・インスリン抵抗性が有意に低下したことがわかった。
研究者のカフロバ氏は「気まぐれなダイエットは、人々に炭水化物を恐れさせることがあります。しかし、健康的な炭水化物、つまり果物・野菜・豆類・全粒穀物由来のものは私たちの身体にとって最も健全な栄養源であることを、研究が示し続けています」と話している。
今回の結果は、植物性食品ベースの高炭水化物食が体重調整と身体組成に役立ち、2型糖尿病のリスクを低下させるという先行研究を裏付けるものである。最近「ランセット」誌で発表された研究でも、動物性食品ベースの低炭水化物食を摂る人の寿命は、より炭水化物摂取量が多かったり、植物性のたんぱく質・脂質をより多く摂っている人に比べて短い傾向があることが明らかにされている。
天然の食物繊維を豊富に含む、植物性の「複合的な」炭水化物は、余分なカロリーを追加することなく料理のかさを増してくれる。先行研究でも、食物繊維の豊富な食事が減量に有効であること、また2型糖尿病や心疾患、特定のがんリスクを低下させる可能性があるとしている。
発信者はリテラシーを持たなければならない
つまり、高炭水化物ダイエットでも痩せない、などと言うことはないのだ。また、ケトジェニックダイエットと普通のダイエットは長期間になると、有意差がなくなるという統計データもあるのだ。つまり、ケトジェニックダイエットにも良いところがあるけれど、他のダイエット法に比べて、格段に優秀なわけではない、という結論が導き出されるのだ。 さて、ここまで書いてきて、件の戦国武将氏に対して厳しい意見になってしまった。まあ、何も戦国武将氏を吊るし上げるつもりはないのです。しかし、あまりにも適当でいい加減な情報を、いくらYouTubeとはいえ、垂れ流して良いものではない。確かにネットの情報は玉石混交でそれを判断するのは全て視聴者である我々なのは理解しているのですけど、こういう、「研究論文を自分にとって都合がいいように捻じ曲げて解釈する」のはいただけません。折角、良い動画も作っているのに、ご自身の業績に掉さすような言説は、御止めになられたほうがよろしいかと思います。立派なお名前が泣きますよ。
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