Kさんという方がいる。彼はK式ダイエットという、所謂、低炭水化物ダイエット方法を提唱している。かなり有名な方のようなので、知っている人も多いはず。今日は彼のダイエット理論について、論評していきたいと思います。
先日、彼と某芸能人の出ているYouTube動画を拝見した。彼は独自のダイエット方法を編み出し自ら実践した結果93㎏の体重が2か月で58㎏になったそうである。計算してみると、1か月あたりマイナス17.5㎏である。驚愕を通り越して、もう、笑うしかない。
脂肪のカロリーは1gあたり9kcalである1㎏の体脂肪のうち、約8割が脂肪なので、体脂肪1㎏を減らすのには、およそ7,000kcalを消費する必要がある。もし彼が減らした25㎏の体重のうち、2割が筋肉で、8割が脂肪だとすると、20㎏。つまり彼は140,000kcalを2か月で消費したことになる。素晴らしい。実に素晴らしい。彼の年齢から推測するに一日に必要とされるカロリーを2,200kcalとしよう。彼の体は30日で66,000kcalを必要とし、60日で132,000kcalを必要とする。この計算からすると、彼は驚くことに2か月間、全くカロリーを摂取しないどころか、それ以上に消費していたのである。
2か月の断食
そういえば断食のギネス記録保持者にアンガス・バルビエーリという人がいる。Wikipediaによると、彼は1965年、ダンディーにあるメアリィフィールド病院に入院した。担当した医師は、断食計画について、当初は長期ではなく短期のほうが望ましいと考えていたが、「(バルビエーリの)身体は断食によく順応し、自身が理想としている体重へ到達するのに熱心であった」ことから、バルビエーリは断食の継続を主張したという。そして1966年7月11日までの382日間、バルビエーリは、ビタミン、ミネラル、水、茶、ブラックコーヒー、炭酸水のみで生活したらしい。断食終了前の最後の数週間は、ミルクと砂糖を少量だけ摂取することもあったという。断食開始時のバルビエーリの体重は456ポンド(約207㎏)で、自身の目標体重である180ポンド(約82㎏)に達すると、断食を自分から終了した。
2か月という短期間で考えると、Kさんの体重減少はギネス記録保持者を超えているのだ。素晴らしい。しかし、Kさんは断食をしたとは言っていない。その2か月間たっぷりと食べていたものがあるという。それは脂質とタンパク質だそうだ。
あぁ、食べていたのか。それでマイナス35㎏ね。断食しても計算上は、2か月で35㎏は減らないのに。
申し訳ないが、眉唾な話しになってきた。私の常識とはかけ離れている。さらにKさん、追い打ちをかけるように「相頭」という言葉を出してきた。どんな意味合いで使っているかというと、「人は頭で思っただけでインスリンが出て太ってしまう」というのだ。
これまたすごい。もしそれが本当なら、世界は飢餓から救われるであろう。というか、人類にとって、最大の敵であった飢餓など、起こらなかったであろう。
随分ぶっ飛んだ話になってきた。
常識を疑え
彼は常識を疑えと何度も語る。例えば今まで世に出てきた研究成果は、そのほとんどが、実証性0だと言っている。これは彼が監訳した書籍のトピックの言葉である。
スタンフォード大学予防研究センターのジョン・イオアニディス博士の研究を引き合いに出している。少し引用させていただく。
ジョン・イオアニディス博士は、ほとんどの栄養研究の信頼性に異議を唱えた。集団の食事の調査から結論を出す研究の大半は誤りであることが、その後の実験的研究で立証されたのである。イオアニディス博士は「その後のランダム化比較試験で、観察研究の主張の検証を行ったが、成績が芳しくないこと(ある再検証では0/52の成功率)、そして間違いがいつまでも続いていることへの批判が集中した」と述べている。これらの概念や仮説を実際の人への実験で試すと、52の集団(観察)研究のうち、摂取すべき食品について元の考えが正しいと証明されたのは、0だったのだ!
ジョン・イオアニディス博士の、この研究自体は学術研究の結果なので、私は何の評価も出来ない。しかし、同じ学者同士であればどうだろう。イオアニディス博士のこの論文に対して、誰も反論しないのだろうか。さらに言えば彼の研究が、それほど正しいのであれば彼に続く研究者が多数出ているはずである。では実際にはどうか。集団の食事の調査は今でも続いているし、その全てが正しくないとしても、決して価値がないとも言えないのだ。もっとハッキリ言ってしまえばイオアニディス博士の研究が世間を変えたなどという事実は全くないのだ。
さて、このKさん、私が思うに、どうも結論ありきで話しを進めるタイプの人のような気がする。しかしだからといって、自分の結論を補完してくれるであろう権威ある人達の論文のみを引用するのは如何なものか。勿論、彼は研究者ではないので、客観性を担保する必要はないかもしれない。しかし、もしそうだとするならば、K氏の理屈は、その程度の価値しかない、としか言いようがなくなってしまうではないか。
証拠は必要である
2か月でマイナス35㎏というような、客観的な合理性を欠くような事象に対しては、信憑性を担保する証拠が必要である。客観的な証拠なしに、常識で考えれば到底達成しえない程のダイエットを達成したとするのは、例え盛った話しとはいえ、あまりにも盛りすぎである彼の言葉を皆さんがどうおもっているのだろう?と思って動画を見ていたが、コメントがオフになっている。皆さんの意見を知りたいものだ、と思った。
さて、動画を見続けていると、彼は世間に流通している悪い影響のある食品郡が、ごく普通に流通していたり、或いは厚労省の栄養バランスや健康に関する指針が人々を不健康にしているというような趣旨の発言をしている。そしてそれは、○○と○○の陰謀だというのだ。○○とは業界タブーの吹き出しで隠されているので解らないが、後に続く言葉がロビー活動というのだから、要するに政治と関連団体、および企業の癒着があり、それらは国民に対して、自分たちの利益の為にウソの情報を流し続けているということだろう。
ここで陰謀論が登場する。またもや証拠なしである。
因みに、一時期話題になり、すぐに下火になったトランス脂肪酸についても言及されていた。体に有害だと解っているのにマーガリンは禁止されていない。これこそ癒着なのだという趣旨の発言だ。トランス脂肪酸に関して、問題になるのは生涯の摂取量であり、日本人は有害になるほどマーガリンを食べていないので禁止になっていないのだが、そのような理由では、彼は納得できないのであろうか。もしそうであるならば、それは、あまりにも感情的な思考法だと思う。
さて、この辺までくると、もう、十分な気がする。まとめよう。
まとめ
この世界は表現の自由というものがある。誰がどんなことを言おうが、それが他の名誉を傷つけなければ、自由に表現して良いのだ。私はそれを批判しない。だからK氏の発言を誹謗したり、中傷したりする行為は絶対にしてはならない。もしも、そのような行為が行われた場合には私は全力でK氏を擁護する。しかし擁護するのは彼の持つ「表現の自由」の部分だけである。表現の自由があるのであれば、その表現に対する反論の表現の自由もある。だから論評は当然されるのだ。彼は他者からの論評、(例えそれが酷評であろうとも)を甘んじて受けなければならない。と、同時にK氏にもその酷評に反論する権利もある。
私は彼の発言には証拠が足りないと思う。もし、彼が大きな影響力を持つのであれば、自らの発言には責任を持つべきだろう。また彼が発信するダイエット方法で健康に被害が及ぶ可能性があるとすれば、それは指摘を受けて当然であろうし、その指摘に対して彼がどう向き合うかである。果たして彼は、K式ダイエットへの反論に対して、真摯に向き合っているだろうか。
彼は自らのホームページでコメントを出している。K式ダイエットは常にブラッシュアップしていると。であるならば、どこをどうブラッシュアップしているのか明確にすべきだろう。もしも彼が口先だけで、このように言っているのであれば、それは見過ごせない問題である。
そして、彼は続ける。K式ダイエットの可否については、自分でリサーチしろと。つまり、自分は正しいと思って書いているし、自分の言っていることには自信があるけれど最終的には、自己責任なので、このK式ダイエットで、どんな健康被害が起ろうとも自分には関係ないとしているのだ。勿論、人によっては効果があるかもしれない。しかし、人によっては健康に悪影響を及ぼす危険がある。
正直に言うと、私は、ここまで偏ったダイエット方法に惑わされるほうが、むしろ変わった人なのだ、とすら思えてくる。彼の言説は、あまりにも極端すぎるものが多い。むろん、そのような反論があるのは、彼の予測の範疇なのであろう。だから、彼は何度も繰り返し言うのだ。「常識を疑え」と。あるいは「自分は何事も徹底的に調べるのだ」と。
為にする議論
世間ではこの手の話しを為にする議論という。結論は出ているのである。その結論を補完するために、あらゆる記述がなされるのだ。どうもK氏の記述は殆どがこれであるように思えてならない。
ダイエットなどというものは、本来自己責任なのだから仕方ないともいえる。しかし、人の健康を侵害する可能性があるダイエットを自分の都合の良い論拠(研究論文など)のみで構築し、その都合の良い根拠が封殺されているのは、業界タブーによるものだとか、これまた根拠のない陰謀論を口にするようでは、如何なものかと思わざるを得ない。既にある程度の社会的地位のある方らしいので、もう少し自身の言葉の影響力を考慮していただければと思う。
K氏のブログを拝見すると、K式ダイエットに対して、極めて悪意をもった誹謗中傷がなされているとK氏は記している。あまりの事に、酷い誹謗中傷に関しては法的措置を取ると言っている。恐らく多くの批判や酷評も同時に受けたであろうが誹謗中傷はダメである。絶対に御止め頂きたい。まあ、そんなこともあって、K式ダイエットは全て自己資金で運用しているし、実践する場合は自己責任と言っているのだろう。
彼がこのダイエット法で何をしようとしていたのかは知らない。しかし、最も重要なことは、この最後の言葉だ。
実践は自己責任で この記事をご覧くださった皆さん、もしもK式ダイエット実践なさるならば、どうぞこの最後の言葉を肝に銘じて下さい。何しろ、K氏自ら、仰っていることですので。
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